はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
母には余計なことを言わないでと釘をさしたのに……チェックアウト時、彼に話し掛けた。

二時間前まではレストランにいたのに、なぜ今はフロントに?と不思議に思ったが、いろんな場所で仕事をしなければならないのは大変だなと思った。

母は美味しい海鮮丼が食べたいのだけど、いいところはないかと訊ねた。

彼は印刷した地図を取り出し、おすすめのお店二か所を丁寧に教えてくれた。私は母の隣で案内を聞きながら、左ポケットに付いている名札を見て、違うことを考えていた。

高梨さんっていうんだ……下の名前はなんだろう? 年はいくつなのかな?

これから市内観光をして夕方には札幌を離れるのに、彼のことを知りたいという興味が膨らんでいた。


「では、観光をお楽しみください」

「ありがとうございます。あ、そうだ。娘を助けていただいた記念に写真撮らせてもらってもいいかしら?」

「はい?」

「はぁ? お母さん、何を言い出すのよ」

「いいじゃないの。ほら、横に並んで。撮るわよー。藍果、笑いなさいよ」


無理やり私を彼の隣に立たせて、母はスマホを構えた。笑えと言われても、突然のことに笑えない。
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