刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件
天井のステンドグラスが土煙の残りでもやがかかったように輝いている。煙が霧散して消えていくのがスローモーションの様に見えていた。

「ーーっつ」

一瞬意識が飛んでいた!?オレはすぐに身体を起こす。「くっぐぁ」 全身から鈍い痛みが広がる。左手の感覚が無いところを見ると砕かれているのかもしれない。

痛い、痛い。痛い!!

ズキズキと脈動に合わせて激痛がはしり、脳髄の奥まで響いてくる。これが身体が破壊されるって事なのか。

「そうだ、アレックス……アレックス助かったよって」

背後に人の気配があり、オレは爆風で吹き飛ばされてしまったのを受け止めてくれたアレックスに振り返る。「は?」
と目の前の光景に気の抜けた声が漏れ出ていた。

アレックスは衝撃によって砕け散っている壁面に身体を預けるように腰掛けている。ただアレックスの身体には力が入っておらず、全身がだらりと垂れていた。

爆風の衝撃とオレを庇ったが故に、壁と衝突した衝撃に挟まれたアレックス。その堅固な鎧は粉々に砕かれ腹部が見当たらなかった。

「嘘だろアレックス……」

どす黒い血が腹部があったであろうその場所から辺りに飛散している。血と、埃と人体の内部独特の臭い。

「なんだよこれ、またかよ。イスカ、イスカの回復でアレックスを……」

オレは立ち上がることも出来ずに、臭気と絶望によって涙と鼻水を垂れ流しながら、力なく中央付近に居るであろうイスカの姿を探した。

「イスカ?イスカ……?」

イスカが待機していたでたろう場所には人影すら見当たらない。移動したのだろうか?だとしたらどこへ?

それに、ミネルヴァお姉様もミーアも居ない。

「探し人は見つかりましたか?」

不意に、背後に移動してきた気配。嘲笑を孕む邪悪な声、似つかわしくない丁寧な口調。全身の血の気が一気に引いていく。身体の痛みと共に冷たい汗が額を伝う。

「みなさんお揃いですよ。さぁ、振り返ってご覧なさい?」

息が切れる。上手く呼吸をするとこが出来ない。全身が細かく震えて力の入るはずの右腕を支点にして後ろを向こうとするけれど、うまく支えることができない。

ゆっくりゆっくりと、視界が移動していく。遠のく意識を激痛が留めていた。

振り返りたくない。もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。

死にたくない。

「ーーあっ。うぁ、うわぁぁぁあっ!!」

恍惚な表情で見下ろすティケルヘリアの足元にあるものを見て、オレは叫び声を上げた。と同時に胃液が逆流して、抱えきれない嫌悪感を、恐怖を思い切り吐き出す。

ティケルヘリアの足元には首を切断され絶命した、ミネルヴァお姉様、イスカ、そしてアレックスと共にカミーラと戦っていたはずのミーアの無惨な姿だった。

「なかなか見事な連携でした。ここ10数年の中でも特に楽しい時間でしたよ」

俯いて泣き叫ぶオレに、ティケルヘリアはそう諭すように言っていた。

「あら?まだ息がある子がいるのネ」

「ティックは右腕を失って、私もかなり魔力を使ってしまった。カミーラも珍しく"アレ"使ったのね……」

やはりというべきか、ダメージを与えることが出来たとはいえカミーラとノブレスは生きていた。

「ティック、さすがにこのダメージでは可哀想よ。止めを刺してあげなさい」

ノブレスはティケルヘリアにそう言って踵を返して歩き出した。カミーラもそれに続いていく。

ティケルヘリアは目を瞑って、1度頷いた。そして、ゆっくりと屈んでオレの頭を掴んで顔をあげる。

涙で揺れていたがティケルヘリアと目が合う。表情はもう見ることはできなかった。

ティケルヘリアは真っ赤な舌を出して、オレの頬を舐め上げた。

「また、遊びましょうね。サヨウナラ」

みしっと頭蓋に圧力が掛けられた感覚を認識するよりも早く、オレの頭は粉砕されて、意識は途絶えた。
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