あかいろのしずく

もし伝えないのなら、今までの彼の頑張りが全てこの時のための犠牲だったことになる。


アズマはいつだって、私達が逃げることを最優先に考えてくれていた。
そんな人を簡単に切り捨てるのは、本当に正しいこと?



心に問ってみれば分かる。


私はたぶん、まだ「みんな」で出ることを考えているんだ。だから一つの犠牲さえも許せなくて、大事な時にいつも踏み切れなくて。



そんな躊躇が生む結果なんて、よく考えれば分かったはずなのに。





「ははは」



不意に隣から声が聞こえて、私はビクッと肩を震わせる。先生は天井を見つめたまま笑っていた。




「っ、ははははは。あはははは」




不気味だった。もうすぐ三人が逃げるというのに、余裕があるのか。
笑いは加速し、先生は立ち上がる。
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