あかいろのしずく

実を言うと、純と一緒にいた時、僕は黙って僕を殺してきました。

何回も何回も、自分の意志も決意も、なかったことにしてきました。

勿論殺す度にこれで良かったんだろうかという不安も生まれたし、それに取り憑かれて苦しくもなりました。自分の意が受け入れられないことを、悔いることもありました。

けど純が好きだったから、純の言葉が正しいと思っていたから、今の今までやめられなかった。


そうやってして殺してきた僕の意志が、胸の奥から這い上がってきたのです。心の中で渦巻いていたどろどろのどす黒い感情が、喉の奥から溢れ出てきたのです。

純の言葉が恐らく、引き金になったのでしょう。
地獄へ送られる覚悟が無駄になった反動が、何倍にもなって僕に返って来ていました。

自分自身がそれに溺れて、窒息してしまいそうなほどに。



前から来た女性とすれ違ったのは、小道を進んで間もなくのことでした。
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