あかいろのしずく

とても、その小さくて細い女性の体から、こんな大きな声が出ているとは思えませんでした。直接鼓膜に流し込まれたような声でした。僕は少し気圧されました。



「あなたに話があるから、私が話します。聞いてくれますよね? 用があるんですから。関係もちゃんとあるんですから」



強い、口調でした。
関係? 呆気にとられている僕の手を、もう一度女性が手で掴みました。今度はもう離さないとでも言いたいのか、ぎりぎりと締め付けるような強い力でした。

まくし立てるように女性は言います。




「私のこと覚えていませんか? 短い間だったけど、私と会って別れるまでの日を、なにも、覚えてないですか? 私は忘れたことなんてない」



引かれた腕。近づく顔。女性の声は目の前にありました。
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