あかいろのしずく
振り返って純の顔を確認する前に、白髪の女性は僕の方に近づいてきました。
そして目の前にいた女性が掴んでいない方の、左手を取ります。
「先生。先生ですよね、あの時私のカウンセリングをしてくださった、あの......。残念ながら、もう名前は思い出せないですけれど、その節はありがとうございました」
しわのある手で僕の手を包み込むと、もう一度、女性は「ありがとう」と繰り返しました。触れた手は温かくて、その閑雅な声に、心が穏やかになるのが分かりました。
なんて言えばいいのか、分かりませんでした。
「いえ、僕は......最後まで。何も、できなくて」
「謙遜しないでくださいな。私が死んだのは事故のためですよ、あなたはなにも、力になれなかったなんて思わなくてもいいのですよ」
彼女が死んだ理由を、僕はずっと自殺したのだとばかり思っていました。失礼なことをしたのです。事故、だったのか。良かった。良かったです。
詰まっていた息を吐きだすと、涙が出そうになりました。