あかいろのしずく
「あの時は、まともに話せなくてごめんなさい。夫がいなくなって、本当に悲しくて、立ち直れなかったんです。先生がせっかく話を聞いてくれるというのに、何も出来ず、最後には自殺を選んでしまいました」
「恥ずかしいですね、いい大人なのに」そう言って彼女は笑いました。僕の腕を掴む手の力が、緩んだのが分かりました。
「とても、申し訳ないことをしたと思っています。でも、わざわざこんな私のために時間を割いてくれたこと、本当に嬉しかったです」
もうそろそろ、いいでしょうか。
僕はずっと勘違いをしていました。僕がカウンセリングを担当したことで、いなくなったひとたちがいたこと。
それが辛くて、いつの間にか、その人たちが自分のことを恨んでいるんじゃないかと思い始めていました。感謝なんて微塵もしていないのだと、思っていました。そういう現実なのです。