仮想現実の世界から理想の女が現れた時
「ふふっ
部長とか? 田中君とか?」

「そうそう。」

瀬名は屈託なく笑う。

その後、ワインをご機嫌で飲んだ瀬名は、やっぱり見事に酔っ払い、俺にもたれかかるようにして店を後にした。

俺は、大通りでタクシーを拾い、瀬名のマンションへと送る。

「部屋に送り届けてきますから、少し待ってて
ください。」

俺は、運転手にそう声をかけて瀬名を部屋まで連れていく。

鍵を開けて、瀬名をベッドに座らせ、グラスに水を入れて持ってきて渡す。
だけど、瀬名はトロンとしていて、それを飲む気配すらない。

それどころか、瀬名はそのままパタンと横になってしまった。

「瀬名、水飲まないと、明日二日酔いで辛いぞ。
ほら。」

俺は何度も瀬名を揺するが、瀬名は全く起きようとしない。

俺は仕方なく、瀬名を無理矢理、抱き起こして水を口に含んだ。
そのままそっと口づけて、口移しで水を飲ませる。

瀬名の肩が、ピクリと跳ねた気がした。

俺は3回程それを続けた後、瀬名を再びベッドに寝かした。
そのまま帰ろうと一度は立ち上がったが、どうにも離れがたくて、もう一度ひざまづき、瀬名の額にそっと口づけた。

唇のような柔らかさはないけれど、肌は滑らかで気持ちいい。

「おやすみ、暁里」

俺は聞こえるはずもないのに、瀬名にそう声を掛けて、後ろ髪を引かれる思いで、瀬名の部屋を後にした。

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