君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 そんなだから、この日茜がわざわざ俺の家にやってきたと言うことに、俺はかなり驚いた。


「茜?外寒いでしょ?とりあえず中入んなよ」


 玄関の外から一歩も中に入らない茜に、俺は扉を右腕で押さえながら、もう片方の手でおいでおいでと茜を招き寄せた。

 茜は、いつもならくるくると表情の良く変わる目をぎこちなく瞬きさせて俺の顔を見ただけで、その場から動こうとしなかった。
 
 このままじゃ押し問答だなと、思って、パタンと玄関の扉を閉めて俺も外に出た。外へなんて出る気が全くなかった俺は部屋着のスゥエットしか着ていなかったから、かなり寒かった。

 良く見ると茜の露出した指先も赤くなっていて、どれだけ長い時間外の外気にさらされていたのかと、俺は思わず眉をひそめた。
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