君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
 茜はいつもの黒のピーコートこそ着ていたものの、相変わらずの薄着でマフラーも何も身につけていなかった。


 いっつもだったら、茜がそんな寒そうな格好してたら、創が問答無用で自分のマフラーを茜の首にぐるぐる巻きにしてるのに。


「……創と、けんかでもした?」


「……そんなんじゃ、ねぇよ。ただ、そうが……」


「創が、どうかした?」

 
 俺の言葉に茜はぴくっと反応して見せたけど、そのあとしばらく茜は言葉の続きを話さなかった。
 
 少し、問い詰めたい気持ちも沸き起こったけど、俺は茜が話し始めるのを待つことに決めた。寒いなぁ、そんなことを思いながら、それでも俺は茜が話し出すのをずっと待ってた。
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