お試しから始まる恋
 ふと、颯が前を見ると、偶然にも少し離れた場所に冬子がいた。

 
「あっ・・・」


 冬子は颯に気づいた。


 黒いスーツ姿で1人でいる冬子。


 遠い場所でパトカーのサイレンが聞こえる。



 冬子は颯と目が合うと、そっと視線を反らしてその場を去って行った。


 颯は、なおを突き放した。


「ちょっと、なにするの? 写真見たくないの? 」

「もういい。別にそんなものに興味ない。早杉が死んでいるなんて、俺は信じない。勝手に言ってろ! 」


 颯はそのまま走って行った。


「ちょっと! もう! 何よ。もう少しだったのに・・・」


 悔しそうに唇を噛むなおは、その場に立ち竦んでいた。



 少し離れたラブホテルから、警察官に連れられて1人の男が出てきた。

 そして遅れて、まだ幼い高校生くらいの女の子が出てきた。


 サイレンの音は、どうやら事件が起こって、警察が来たからだった。

 
 遠目でなおは、茫然と警察官に連れて行かれる男を見ていた。



 颯は冬子を追いかけて走って来た。


 パトカーが走り去るのが見えたが、冬子の姿はなかった。



 颯は携帯電話を取り出した。


 冬子に電話をかける颯だが、出てはくれなかった。


 電話を切ると、メールを送る颯。


 夜のネオン街が光るのを見て、颯はため息をついた。

「こんな場所で、あんな所見たら誤解されるよな・・・。でも、なんで冬子はここにいたんだ? しかも1人で・・・」

 
 少しのショックと疑問を抱きながら、颯はホテル街を後にして帰路へ着いた。




 帰宅すると、颯はリビングのソファーにゴロンと寝転んだ。

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