私は視えない。僕は話せない。
「母さんから連絡があった。行ってしまったんだな」

 その日の夕餉時。
 僕は父の言葉に頷いた。

「行くなと言っただろう――とは怒るまい。諸々話した、とも聞いたからな」

 僕はまたも頷く。
 同時に、お願いも一つされた旨を話した。

「お願い?」

『娘さん、僕の姉には、他人として接して欲しいって』

「――そうか。まぁ、そうだろうな。向こうも苦労しているみたいだからな」

『驚かないんだね?』

「まぁ、あいつの言いそうなことだからな」

 父はそう言うと、珈琲を一口。
 ふぅと息を吐いて、しかしまぁと続ける。

「俺も、成長した美緒に会ってみたいものだ。母さんに似て、美人に育ってるだろうな」

『顔はどことなくお父さん似だったよ』

「そうなのか――って、今日はいなかったんじゃなかったか? 二度目か?」

『一度目はたまたま。ほら、交差点沿いのコンビニが改装工事中だったから、迂回したんだよ。あと、その時は一瞬見かけただけだから』

「あぁ、そういうことか」

 珈琲二口。

 僕の話に怒らないのは、自身でも言っていた通り、母とは繋がっているからだ。
 母からの連絡にて事の詳細も聞けば、内容次第で変動する、と。
 それならばいっそ、別居を解消しても――とも思ってしまうが、ふと思い出すのは、今日の昼間に聞いた母の言葉だ。
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