私は視えない。僕は話せない。
 自身も目が見えないという状態にありながら、僕にそんな言葉をかけるのだ。
 辛いことを辛いと認め、他と比較することなく――けれど前向きに、明るい口調で言ってのけるのだ。
 
『ありがとう』

 気が付いた時には、僕はそう姉の手に滑らせていた。

 なまじ知ってしまった事実に、現実に、それを隠して生きなければいけない未来に。
 実を言うと、少し息が詰まりそうだった。

「そろそろ戻りましょうか。拓也さんの言う通り、お母さんに心配をかけちゃいます」

 姉の一言で意識が現実に戻されると『うん』と返して席を立つ。
 少しふらつく姉の身体を支えながら、ゆっくりと。
 そのまま手を引いて歩いて、公園を後にして、母の待つ家へと向かっていく。
 
 いつも通り、何も変わらない平和な道を。

 そう、思っていたのだが。
 ふと聞こえたのは、後方より近付くトラックのタイヤとエンジンの音。
 こんな一般道で、随分とスピードを出している。

 何となく振り返ると、それはすぐ十メートル程先のところまで迫って、僕らの方へと突っ込んできていた。
< 34 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop