闇に溺れた天使にキスを。



「……そんな怖い顔、する必要ねぇから。
お前の知ってる“神田拓哉”は俺も知ってる」

「……え」


思わず涼雅くんのほうを向く。
彼はいたって真剣な表情。

その時車が動いたため、少し車内が揺れる。


「一応言っとくけど、俺と“拓哉”の付き合いは長い」


さっきまで“佐久間”と呼んでいた涼雅くんが。
神田くんのことを“拓哉”と呼んだ。

慣れ親しんだ呼び方で。
ふたりの関係が深いものだと、その時点でわかった。


「拓哉の本名を知っているのは、副総長の俺と、あとはお前が一緒に来た幹部の翔と俊斗の計3人。

けど翔と俊斗は学校が同じって理由だけで本当の苗字を教えたから、他の幹部も知らないし、もちろんふたりも拓哉が偽名を使う意味を知らない」


足立先輩と平沢先輩、幹部だったんだということよりも。

先に涼雅くんだけが知っている“神田くんの姿”があるのだと考えてしまう私。


その上、知りたいだなんて思ってしまう自分もいた。

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