闇に溺れた天使にキスを。



「考えられねぇだろ?」
「え……」

「俺もそう思う。感情抱かねぇとかあり得ないって。
でも拓哉がそれを証明してる」


確かに感情を抱かないだなんて、普通だと考えられない。
けれど、涼雅くんが嘘をついているように見えなくて。

本気で言っているのだというのはわかった。


「なぁ。感情が抱かない場合、どうすると思う?」

難しい質問というより、答えられない質問をされる。
戸惑っていると、涼雅くんが小さく笑った───


かと、思えば。
少し切なげな表情へと変わる。


「作るんだよ」
「……え」

「自分の中で、感情を生み出すんだ。
自分をコントロールして、喜怒哀楽を自由自在に操る。

ありえねぇ話だろうが、それが神田拓哉。
だから怖い。拓哉は嘘でも泣けるから」


演技っぽさがひとつもなく、自然に心から悲しい感情を表現できるのだと彼は言う。

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