闇に溺れた天使にキスを。
「白野さんならなんでも大丈夫だよ。ただ、ヒールとか履いてくれてたほうがキスしやすいなって」
「……っ」
いきなり何を言いだすんだ。
不意打ちでそういうことを言われ、思わず顔が熱くなる。
キスしやすいって…私と神田くんは、そんな仲じゃないというのに。
けれど、それをわかっていながら。
キスを受け入れてしまう私も私だ。
「まあ、座ったり押し倒したりしたら関係ないんだけどね」
「い、言わないで…」
そんな恥ずかしいことを、堂々と。
神田くんは、まったく照れている様子がない。
「それとも白野さんから背伸びしてくれる?」
「……っ、し、しません」
自分から背伸びをするだなんて、キスを求めているのも同然で。
そんな恥ずかしい行動は、生きているうちにもできないだろう。
「厳しいなぁ」
「神田くんはキスばっかり…」
「あれ、おかしいな。まだ白野さんとは2回くらいしかしてない気がする」
「だから言わないで……!」
電車の中で恥ずかしい。
それも、2回くらいだなんて。
私にしてみれば大ごとだ。
だって私たちは恋人関係でもなんでもない。