闇に溺れた天使にキスを。



それから電車を1本遅らせ、学校へと向かう。

1本遅らせても満員電車に変わりなかったけれど、ぎゅうぎゅう詰めの状況に苦しいとは思わず、頭の中は昨日のことでいっぱいだった。


学校に着く頃には、ちゃんと切り替えられるようにしないと。

そう心に決めていたけれど───


「未央!」

今日は廊下を歩いている時、やけに視線を感じて不審に思っていると、教室に入るなり沙月ちゃんに迫られてしまう。


その状態で一瞬、神田くんの席を見たけれど。
そこに彼の姿はなかった。


「ど、どうしたの…?」
「あんた、いったいどういうこと!?」

「えっ、と…?」
「いつから付き合ってたの!?」


その言葉にどきりとする。

だって、私と神田くんが付き合ったってことを、誰にも言っていなかったからだ。


「そ、れは…」
「しかもすっごいイケメンなんでしょ!相手は誰!?」

「……え?」


相手は誰って…神田くんだ。

けれど沙月ちゃんの様子がおかしくて、なぜか心に引っかかる。


「昨日仲よさそうに手つないでデートしてるところを目撃した子がいるのよ!」

「……っ!?」


やっぱり沙月ちゃんは誤解している。
その相手とは間違いない、お兄ちゃんのことだ。


「あ、あの…」

「神田くんといい感じだったのに、まさか彼氏がいたなんて……いつから!?」

「ま、待って…」
「今回は正直に言いなさいよ!?」


興奮状態の沙月ちゃんを必死で止めようと試みるけれど、どんどん状況は悪化するのみで。

クラスのみんなからも視線を感じ、逃げ出したくなる中。


「き、昨日はお兄ちゃんと出かけてたの!
だからみんな誤解してるの!」

意を決して、珍しく声を張った私。

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