闇に溺れた天使にキスを。
「……え、お兄ちゃん?」
「そうだよ…!私とお兄ちゃん、全然似てないからいつも誤解されるの」
お兄ちゃんと言ったことで、沙月ちゃんは落ち着きを取り戻した様子。
どうやら信じてもらえたようだ。
もちろん兄妹だという証拠もあるからいいのだけれど。
「うそ、そんなに誤解されるくらい似てないの?」
「うん、写真見る?」
「見せて!」
今度は私のお兄ちゃんに興味が湧いたらしく、目を輝かせる沙月ちゃんはもう先ほどの話を忘れたようで。
周りも私たちの話を聞いていたため、誤解が解けてまたそれぞれが話し出し、教室が騒がしくなる。
「待って、すっごくかっこよすぎない!?」
「全然似てないでしょう?」
「確かに似てないけど、容姿が整っているのは同じじゃんか!」
「整ってるのはお兄ちゃんだけだよ!」
「あー、もう。わかってないなぁ」
呆れ顔の沙月ちゃんはいつものこと。
私のことをかわいいという時点でおかしいのだ。
「ね、ねぇ、白野さん…!」
その時、誰かに私の名前を呼ばれた。
声のしたほうを向けば、そこには3人組の女の子が立っていた。
「え、えっと……ど、どうしたの?」
突然声をかけられたから、何事かと思い緊張してしまう。
「あの、私たちにもお兄さんの話、聞かせてほしいなって」
ひとりの女の子が恐る恐る言い、他のふたりは同調するように何度も頷いた。
私の、お兄ちゃんの話……?
思わず沙月ちゃんのほうを向けば、“チャンスだよ”とでも言いたげに目配せされた。