闇に溺れた天使にキスを。



思わず一歩、後ずさりする。


「白野さん?」

不思議そうに見つめる彼。
その姿でさえも作っているように思えた。


「あ、あの…」
「どうして怖がってるの?」

眉を下げ、悲しそうな表情をする神田くん。


本当だ。
涼雅くんの言っている通り───

神田くんからは悲しみのオーラや感情が滲み出ている。
けれどそれも嘘だとわかってしまう。


きっと神田くんを知る前なら、これも本物だと信じていたことだろう。


「……どうして、怒っているの?」

勇気を出して、振り絞るような声で話す。


明らかに今の彼は怒っている。
その理由は考えたってわからない。


「怒ってないよ?」
「…嘘つき、作ってるってわかるもん」


自然に感情を露わにする神田くんを知ってしまったから。
もう私を騙すことなんてできないだろう。


「……そっか」

ふと、神田くんの声のトーンがさらに落ちた気がした。
思わずビクッと肩が震え、警戒してしまう。


「おかしいな、こんなにも早く見抜かれるなんて」

優しい笑顔。
にっこりと満面の笑み。

完全なる作り笑いが、さらに彼の怖さを引き立たせる。


「本当なら白野さんを騙して、食べてやろうと思ったのに」


ゆっくりと彼が近づいてくるから、それに合わせて後ろに下がる。


「どうして怒ってるの…?」
「考えなくてもわかるよね?」

わからないから何度も聞いているのに。
彼は一向に理由を話そうとしてくれない。

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