闇に溺れた天使にキスを。



「逆に聞くけど、どうして俺から逃げるの?」

その間にも神田くんが私に迫ってきて。

ここは一階。
いつ人が通るかわからない危険な場所。


それに気づいた私が足を止めれば、彼も合わせるようにして足を止めてくれた。


「やっとわかってくれた?」
「うん…教室で、話そう」
「じゃあ行こうか」


逃げないようにと彼が付け加え、私の手を握る。
いつもより少し乱暴に。


「あの、神田くん」

かと思えば、今度は焦ったかのように歩くスピードが速くなる彼。


思わず名前を呼ぶけれど。


「……何?」

返事はそっけないもので。
多分今の彼が、作っていない本当の姿。

やっぱり怒っている。


「歩くの、早くて…っ」
「早く白野さんに迫りたいから、そんな余裕ない」


私に迫りたい。
いつもならドキッとしてしまうその言葉が、今は怖い。

もしかしたら怖く迫られるかもしれないと思ってしまう自分がいたからだ。


結局彼の歩くスピードは変わらず、付いて行くのに必死だった。

教室に着くとようやく落ち着けると思ったのも束の間。


「……っ」

ドアが閉められたかと思うと、ドアのすぐ横にある壁に体を押し付けられた。


迫るって言葉、どうやら本気だったらしい。

この状況が危ないとわかっているけれど。
打開策がない。


「かんだ、く…」

「あんな慣れてないふりして、本当は男落とすの趣味だったんだ」

「え……」


冷たい瞳が私を捉えた。

睨まれていないけれど、睨まれるよりずっと怖いその瞳に体が凍ったように動けなくなる。

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