闇に溺れた天使にキスを。



この間は無意識のうちに口からこぼれていたような、そんな言い方だったけれど。

今回は意識的に言っているように思えた。


「涼雅くん…?」


思わず涼雅くんの名前を呼ぶ。


少し微妙な空気が流れた後、ようやく彼が私のほうを向いて───



「この前はお前らが羨ましいって言ったけど、今は“拓哉が”羨ましい」



涼雅くんの瞳が私を捉えた途端、どきりとした。

目を逸らしたほうがいいと思った時にはもう遅くて、彼から目が離せなくなる。



「俺のこと、意識すればいいのに」


突然涼雅くんの手が伸びてきて、私の頬に触れてきた。


優しい手つきに戸惑いつつ、抵抗するべきかもわからないため、ただじっと見つめ返すことしかできない。



「あー、腹立つ」
「へ……」


相当不機嫌な声を出すものだから、不安になったのも束の間。


「……っ!?い、いたひ…」


確実に油断していた。
涼雅くんは私の頬を引っ張ってきたのだ。


「痛くねぇくせに」
「うう…こんなこと……」

「ブッサイクな顔」



なんだかはめられた気分になる。
少しでも不安に思ってしまった自分を恨みたいと。


じっと涼雅くんを睨みつけるけれど、バカにしたように笑って流されるだけ。



なんだか騙された気分になり悔しいと思う反面、なぜか心のどこかで安心している自分がいて───



けれど、今日のことはただの“始まり”に過ぎなかった。

< 435 / 530 >

この作品をシェア

pagetop