闇に溺れた天使にキスを。
この間は無意識のうちに口からこぼれていたような、そんな言い方だったけれど。
今回は意識的に言っているように思えた。
「涼雅くん…?」
思わず涼雅くんの名前を呼ぶ。
少し微妙な空気が流れた後、ようやく彼が私のほうを向いて───
「この前はお前らが羨ましいって言ったけど、今は“拓哉が”羨ましい」
涼雅くんの瞳が私を捉えた途端、どきりとした。
目を逸らしたほうがいいと思った時にはもう遅くて、彼から目が離せなくなる。
「俺のこと、意識すればいいのに」
突然涼雅くんの手が伸びてきて、私の頬に触れてきた。
優しい手つきに戸惑いつつ、抵抗するべきかもわからないため、ただじっと見つめ返すことしかできない。
「あー、腹立つ」
「へ……」
相当不機嫌な声を出すものだから、不安になったのも束の間。
「……っ!?い、いたひ…」
確実に油断していた。
涼雅くんは私の頬を引っ張ってきたのだ。
「痛くねぇくせに」
「うう…こんなこと……」
「ブッサイクな顔」
なんだかはめられた気分になる。
少しでも不安に思ってしまった自分を恨みたいと。
じっと涼雅くんを睨みつけるけれど、バカにしたように笑って流されるだけ。
なんだか騙された気分になり悔しいと思う反面、なぜか心のどこかで安心している自分がいて───
けれど、今日のことはただの“始まり”に過ぎなかった。