闇に溺れた天使にキスを。



瞬間、ドクンと心臓が大きく音を立て、息をするのを忘れてしまう。

思考が停止し、目を見張るのが自分でもわかった。


───それぐらい、目の前の彼を見て衝撃が走る。


神田くんの、鎖骨あたりから胸元にかけて露わになる、和をイメージされた刺青。

これは夢だと思った。


それは赤をベースにした、色鮮やかな鳳凰が堂々と彼の体に入れられている───


和彫り、だった。


「……あ…」

私と同じように、目を見開く神田くん。

メガネを外しているため、いつもよりはっきりとその瞳が見える。


思わず声にならない声が漏れてしまった。


その刺青を見て。
堂々と描かれている、鳳凰を見て。
背中にあった、大きな傷を見て。

彼、神田くんが───


『普通の人』ではないと悟ってしまった。

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