闇に溺れた天使にキスを。
背中に目立ったようについてある、切り傷を見て思わず視線をそこで止めた。
それもひとつではなく、数カ所についてある。
血が滲んだような痕。
きっと、その傷はつい最近できたもの。
「───華(はな)さん、すいません。
このくらい平気だって言っているんですが…」
その時。
神田くんが静かに口を開いた。
口調はいつも通り穏やかで、優しい声だったけれど。
華さん、とは一体誰のことか。
私にはわからない。
多分、女の人。
それから下の名前で呼ぶ、親しい人に違いない。
私を、その華さんという人だと思い話している神田くん。
「……華さん?」
彼が口を開いても、返事がなかったからだろう。
異変に気がついた神田くんが、ゆっくりとこちらを振り向いた。