インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
そう言われてみれば、なんの得もないはずの尚史がこんなに頑張ってくれているんだから、お礼のひとつぐらいはするべきだと思う。

しかし何をあげれば尚史は喜ぶんだろう?

ちょっと高い店の焼肉とかお寿司とか、それとも尚史が欲しがっているゲームソフトとか?

でもやっぱり本人に聞くのが一番いいのかな。

「だったらお礼は何がいい?でもあんまり高いものは無理だから、私の財力でなんとかできる範囲内にしてもらえるとありがたいんだけど」

私が尋ねると、尚史はケーキを口に運びかけた手を止めて眉間にシワを寄せた。

「そういうのは要らない。俺は別にお礼が欲しくてやってるわけじゃないから」

「でもそれじゃあ申し訳なくて、私の気がおさまらないって言うか……」

「じゃあ……モモが大事にしてるものちょうだい。他の誰にもあげたことないくらい貴重なやつ」

んん?そんなものあったかな?

昔から大事にしているものと言えば、光子おばあちゃんに買ってもらったムササビのぬいぐるみのムーちゃんくらいだ。

だけど私の汗とかヨダレとか手垢で汚れたボロボロのぬいぐるみをもらったって、誰も喜ばない。

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