インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
大きめの一口大に切り分けたケーキをフォークで尚史のお皿に乗せようとすると、尚史は何を血迷ったかフォークを持った私の手を掴み、そのまま自分の口に運んでケーキを食べた。

私は目の前で予想外に起こった一瞬の出来事に驚き、呆気に取られてフリーズしてしまう。

今……何が起こった?

私の手を尚史が掴んでケーキを……え?

今のは私が強制的に『あーん♡』をさせられたのでは……?

尚史は唇の端についた生クリームをペロリと舐めて、やや斜めの角度で上目遣いにチラリと私の顔を見た。

「えっ……?ちょっ……えぇっ?!」

「ごちそうさま」

「ごちそうさまって……!何、今の?」

「昨日の氷のお返しをしてもらったんだけど、それが何か?」

氷のお返しってなんじゃい!

氷くらい手掴みでいくらでも返すわ!

氷のお返しがケーキって、一体何倍返しだよ?

氷がケーキに化けたことはともかく、私相手にいちいち漫画の胸キュンシチュエーションみたいなことをしなくてもいいのに!

おそらく尚史は、これもきっと無自覚でやっているんだろう。

なぜなら彼は、無自覚にイケメンキャラを発動させるスキルを持っているのだから!

まったくたちの悪い無自覚イケメンだ。

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