インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
「ああ……うん、また一緒に来るからね」

私はなんだか妙に切ない気持ちになりながら、小さく手を振って病室をあとにした。

車に乗って家に向かっている間、光子おばあちゃんの言葉と嬉しそうな顔がぐるぐると頭の中を駆け巡った。

尚史はきっと光子おばあちゃんに嘘をつき通すつもりなんだと思う。

光子おばあちゃんが喜んでくれるなら、形だけでも結婚式を挙げて花嫁姿を見せてあげた方がいいんだろうか。

それが嘘だと知らないままで亡くなったとしても、おばあちゃんのためだと言えるのか。

できれば嘘はつきたくないけれど、尚史には谷口さんがいるし、私との結婚を無理強いすることもできない。

そして私の気持ちは?

一緒にいて一番落ち着くのは尚史だし、もし尚史に彼女ができて一緒にいられなくなったら寂しいと思うけれど、尚史とずっと一緒にいられたらという気持ちは幼馴染みとしてのものであって、恋愛感情ではない。

一体私はどうしたいんだろう?

どうすれば丸くおさまるのかと考えているうちにだんだん家が近付いてくる。

「アップルパイ焼くから、時間あるならうちに寄ってって、おふくろが」

尚史がハンドルを握りながらそう言うと、母は嬉しそうにポンと手を打った。

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