インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
尚史の言葉に苦笑いがもれた。

私は昔、付き合い始めたばかりの相手にいきなり押し倒され、防衛本能が働いて無意識のうちにその人の股間を蹴りあげて逃げたことがある。

ずっと前にキヨの店で飲んでいたときにそれを話したら、みんなは青ざめた顔をひきつらせていたけれど、尚史だけは涙を流して大笑いした。

それから尚史はそれを『武勇伝』と呼んでいる。

戦闘が終わると、尚史はまた薬草を私に与えてダンジョンを進む。

「昼休みに一緒に飯食うくらいはどうにかならなくもないだろうけど、仕事のあとで飲みに行こうとか、休みの日にデートしようとか言われたらどうすんの?」

「うーん……そうさなぁ……」

あの頃はまだ二十歳になったばかりだった私も、今では27歳の大人になったわけだし、男女が付き合うと何が起こるかくらいはわかっているつもりだ。

ただそこに実体験が伴っていないと言うだけの話で、事前にイメージトレーニングをして覚悟さえ決めておけばなんとかなるのではないか。

八坂さんのことが特別気に入ったとか異性として好きになったというわけではないけれど、悪い人ではなさそうだと思うから、今のところ結婚という目標に最も近いこの人を逃すわけにはいかない。

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