インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
あれもこれもと片っ端から出してもらったにもかかわらず、店員のお姉さんは嫌な顔ひとつせずにショーケースから指輪を取り出し、磨いた指輪をベルベット調のトレイの上に乗せてくれた。

「最近はこのようなデザインのものがお若いご夫婦に人気ですね」

光の当たる角度によって色が変わるものや、女性が婚約指輪と重ねて着けるタイプのものもある。

「そういえば婚約指輪もなかったな」

「そりゃあの流れだとね……」

私と結婚してやってくれと母に言われた尚史が『別にいいけど』と言って、その数分後に婚姻届を書いて、翌日には尚史が婚姻届を提出した。

そんな経緯で結婚した私たちには婚約期間なんてまったくなかったのだから、婚約指輪がないのは当たり前だ。

「俺はホントは、モモに婚約指輪渡して『結婚しよう!』とか言ってみたかったんだけどな」

「今そんなこと言っても遅いよ、もう結婚したんだから」

別に婚約指輪なんてなくたって構わないと私は思っていたのに、尚史にとってあの流れでの結婚は不本意だったらしく、婚約指輪と重ねて着けるタイプの結婚指輪をまじまじと見つめている。

結婚にかかる費用は全額うちの親がもつと言っていたから、結婚指輪も当然その内訳に入るんだろう。

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