インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
私のことを好きだとか、なんだかんだ言ったって、結局尚史は体で覚えてしまった快楽には勝てなかったんだから、そんな言い訳は通用しない。

私は尚史の手を振り払い、床に手をついてなんとか自力で自分の体を支えた。

「そんなこと言ったって、尚史は水野さんのことを散々抱いたんでしょ?そんなにイヤならしなきゃ良かったのに……。結局は尚史も、気持ちいいことができれば誰でも良かったんじゃないの?それって私にトラウマを植え付けた男とか、八坂さんと同じってことだよね?」

「違う、そうじゃない!俺はホントに……!」

素直に認めればいいものを、大人の男がこの期に及んで言い訳なんてみっともない。

私は尚史の口を唇でふさいで、その言葉の先を遮った。

「もういいよ……。何言ったって、過ぎたことはどうしようもないんだから。私と結婚する前に尚史が誰と何してたって、私にはどうすることもできない。それでも私は尚史が好きだから、過去のことなんて気にしないでおこうと思ってたのに……」

無意識のうちにこぼれた涙が次々と溢れて私の頬を濡らし、いくつもの筋を作って滑り落ちた。

その滴はキッチンの床にいくつもの跡を残す。

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