インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
背の高い尚史に鋭い目付きで見下ろされて怯んでしまったのか、男はそそくさと逃げるようにしてこの場を離れ、仲間と一緒にあっという間に会計を済ませて店を出た。

その後ろ姿を見届けた尚史は小さくため息をついた。

「モモ、大丈夫か?」

尚史はいつもの声でそう言って、私の頭を優しく撫でた。

なんだか懐かしい感触だ。

子供の頃にいじめっ子の同級生に苦手なカエルを無理やり押し付けられたときも、こんな風にかばって私が泣き止むまで頭を撫でてくれたっけ。

そのときはもちろん、今みたいに抱きしめたりはしなかったけれど。

あれ……?

ってことは、私は今、尚史に抱きしめられているのか?

急に気恥ずかしくなった私は、慌てて離れようと尚史の体を両手で押し返した。

「大丈夫……。ビックリしてパニクってただけだから。助けてくれてありがとね」

「そうか。大丈夫ならいいけど……」

「あんまり遅いから帰ろうかと思ってたよ」

「あー……待たせて悪かった」

尚史は何事もなかったような顔をして、ネクタイをゆるめながら席に着いた。

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