身代わり令嬢に終わらない口づけを
「ああ。切れ者で顔もいいとなかなか評判の後継ぎだぞ」

「わたくしは会ったこともございません。第一、相手が誰であろうと、嫌なものは嫌です」

「トリス。お前のためを思って決めた結婚なのだ。いつまでもわがままを言うものではない。わしだってお前を嫁になど出したくないが、お前が幸せになれると思えばこそ……」

 二人の口論を聞きながら、そういえば、とローズはぼんやりと思いかえす。

 ここ数か月程、ベアトリスのドレスなど新調すると言ってはしつこいくらいに採寸が行われていた。てっきり来期のシーズンに向けてのものかと思っていたが、あれはもしや花嫁衣裳でも作っていたのだろうか。

「わかりました」

 どう言っても話が覆らないことを悟ったベアトリスが、ついに硬い声で答える。
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