身代わり令嬢に終わらない口づけを
「急なお話だったので、わたくしも少し動揺したのですわ。そのお話、謹んでお受けいたします」

「明後日には公爵家から迎えが来る。全ての支度は公爵が手配してくれた。お前はただ、楽しみに待っておれ」

 明後日?! とローズは息をのみ、ベアトリスは短い沈黙のあと、はい、と小さく返事をした。ベアトリスが立ち上がったのを機に、二人は伯爵の部屋を辞した。

「お嬢様」

 きびきびとした足取りで部屋へ戻るベアトリスの後を、ローズは心配そうについて行く。

「なあに、ローズ」

 思いの他しっかりした声でベアトリスは答えた。だが、前をむいたままのその表情は見えない。

「あの……」

「大丈夫よ。私だって、伯爵家の娘ですもの。いつかこうやってお嫁に行くことはわかっていたわ。ただ、本当に急だから驚いただけよ」

 淡々としたベアトリスの言葉に、ローズはうつむいて唇を噛む。

「明後日……いくらなんでも急すぎます。これでは準備もなにも……」

「やっぱり、ローズも知らなかったの?」
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