身代わり令嬢に終わらない口づけを
「ありがとう。嬉しいわ」

 微笑んだベアトリスに、ローズも満面の笑みを返した。

 思えばあの時にはもう、ベアトリスの頭の中にはこの計画があったのだ。

 まさか、公爵家から迎えが来るという日の朝に、失踪するとは。

 その日、早くから仕度をしなければといつもより早めにベアトリスを起こしに行ったローズが見たものは、

『駆け落ちします』

 と一言記された手紙だけだった。

「お嬢様―――!」

 はしたなくもローズが叫んだことを、誰が責められようか。

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