身代わり令嬢に終わらない口づけを
 ベアトリスの事だから、伯爵から結婚の話を聞いたときから綿密に今回の逃走を画策していたに違いない。

 しかし、よりにもよって駆け落ちとは。ローズが思い当たるのは、街中で会ったという素性もしれない商人の男だけだ。ベアトリスの地位を知っているのなら、もしかしたら財産目当てなのかもしれない。

 つくづくローズは、その男の身元をはっきりさせておかなかったことを悔やんだ。ダメだと言われても、一度その男に会っておけばよかった。

 それとも。

「もしかして、結婚を嫌がるほど本当に好きだったのかしら……」

「何がだ」

 独り言に答えが返ってきて、油断していたローズは思わす声を上げて驚いた。あわてて振りむくとそこにはなぜかバラの花束を抱えたレオンが立っている。

 ローズがいたのは、カーライル家に用意されたベアトリス用の客室だった。
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