身代わり令嬢に終わらない口づけを
「俺たちはまだ夫婦ではないからな」

 ちら、とローズはレオンを見上げた。祭壇に向いたその横顔は、憎たらしいくらいに涼し気だ。


 レオンがちくちくとそう言い張る理由に、ローズは心当たりがあった。以前、夫婦でもないのに愛称で呼ぶなと言ったことを、レオンは覚えているのだ。よほどその時にへそを曲げたのだろう、と、ローズは小さなため息をつく。


「レオン様も、たいがい根に持つお方ですね」

「似たもの同士ということだな」

「では、私もレオナルド様とお呼びしますよ?」

「お前はそのままでいい。それより、公爵夫人は嫌か?」

 レオンはローズに視線を映した。その目は、思いがけず真剣だ。
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