身代わり令嬢に終わらない口づけを
 田舎で領地を治めるクリステル・トロレンダ伯爵夫人は、社交界にあまり詳しくないレオンでも知っているほどの有名人だ。

 若い頃のクリステルは数々の貴族の愛人と噂されたが、彼らが全て一流と言われるひとかどの人物だったために、その立場になることが社交界では一種のステイタスのようにまで思われていた。

 結局彼女は誰のものにもならなかったが、それは、たった一人だけ本当に愛した人との想いが成就しなかったからだとか、いや相手にはすでに妻がいたからだとか、様々な憶測が流れていた。


 昨日、どんよりとした顔色の伯爵夫妻とともにこの館についたクリステルは、ベアトリスから事の次第を聞いて胸を叩いてまかせろと言い放った。

『なんて愉快なんだろうね! 惚れた者同士が幸せになれるのなら、私にできることはなんでもしてあげるよ』
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