ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
ふいに、和やかな空気に不釣り合いの硬い声がして。
スタジオ内の視線が、すべて入口へと集中した。
そこに立っていたのは、大柄の男性2人。
ライアンと……今日の審査員をお願いしている、シェルリーズホテルの総料理長、サミュエル・ベルナード氏だ。
「うわぁ~海外ファッション誌の撮影現場みたいですねっ! ど迫力~!」
南波さんとアシスタントさんが、うっとり歓声を上げてるけど……まぁ、気持ちはわかる。
王子様ルックスのライアンはもちろんだけど、横に並ぶベルナードさんも負けてない。
縮れたブラウンの髪、明るいブルーグレーの瞳、くっきりと高い鼻と頬にはそばかすが散っていて、親しみやすさがあって。
グレンチェックのデザインセーターがよく似合ってる。
ブランドスーツを着こなしたライアンと、カジュアルスタイルのベルナードさん。2人が並ぶと、まるでランウェイを歩くモデルを眺めているようで、モノクロのスタジオがパッと華やぐんだもの。
「ベルナードさん、お忙しいところ――」
「やぁアスカ! サムでいいって言ったろ。今日も美しいね」
綺麗な日本語で話しながら、両腕を広げて近づいてきたベルナード氏、もといサムさんは、私の腰を引いてハグ……からの、軽いキス。もちろん頬だけど。
初めての打ち合わせで自己紹介した時から、こんな調子で。
さすがフランス人……これも慣れなきゃいけないのよね――
「Sam」
咎めるような、剣呑な声がした。
振り返ってその声の主を確認したサムさんは、ひょいっと両手を挙げて、私を解放してくれた。
「君のフィアンセは嫉妬深いね」
素早くウィンクを寄越したサムさんの向こう……ライアンがトゲトゲしい視線を向けていたのは、サムさんじゃなかった。
一体何を見てるんだろう……?
視線を追おうとした時、「じゃあ、全員そろったみたいなので、こちらへお願いします」と田所さんの声がかかり。
私は確かめ損ねてしまった。