ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

全員の紹介と名刺交換を終えてから、田所さんが今日の流れを説明し始める。

「今日は予選通過した20作品を、南波さんに作って作って作って、作りまくってもらいますから。みなさん、気合い入れて食べてください。最初の方でお腹いっぱいになっちゃわないでくださいよ?」

すでに忙しくキッチンの中で立ち働いていた南波さんが、緊張した面持ちでぺこりと頭をさげる。

「矢倉さんには、審査風景の撮影をお願いします。審査員一人一人、それから全体の歓談風景。料理も一応全品、試食前のものを撮っておいてください」

「優秀作品に選ばれたやつは、別日にもう一回撮るんだろ?」
雅樹が聞くと、田所さんは「そうです」と頷いた。

「その時はスタイリングもばっちりキメたやつを、改めて撮っていただきますので」
「商品はいつ撮る? 今日? それともその、別日?」

今度答えるのは、私だ。
「新しいパッケージのものが、今日ギリギリ間に合いそうなんです。今、うちのアシスタントが工場まで取りに行ってますので、最後の方でお願いできればと」

「了解」

「すみません、こちらが取りに行かなきゃいけないのに」
申し訳なさそうに頭を下げる樋口さんに、「いえ、とんでもない!」と笑顔を向けて、そのままチラリとライアンに目を走らせた。

なんでだろう……彼の機嫌が、ものすごく悪い気がする。
いつもと違って口数は少ないし、ピリピリしてて。
何より、私の方を全然見ない。

朝家を出たときは、普通だったわよね?
私に会えるって、楽しみにしてたくらいで。
その後……彼が気を悪くするようなこと、あったっけ?
サムさんが私にキスしたこと?
でもあんなの挨拶で、ライアンだってわかってるはずなのに……

モヤモヤと考えて、そんな自分に気づいて吐息をつく。
彼の視線を捕らえられないだけで、こんなに動揺してしまうなんて。
こんなんで別れようなんて、本当に言えるのかな――
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