ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――なんで……彼?
――彼と一緒にいると、安心できるの。私たち、お互いよく知ってるし……
――じゃあ僕は? 僕と一緒にいると、どうなの?
みっともなく問い詰めた僕に、黒い瞳が怯んだように揺れた。
――……ライアン、と一緒にいると……
定まらない視線が、不安を増幅させる。
――ごめんなさい。とにかくもう、終わりにしたいの。
終わりにしたい?
なんだよそれは。そんなに簡単に?
彼女は、ようやく揺れる視線をわずかに上げ、僕へと合わせた。
その表情は暗く翳るばかりで、よく感情が読み取れない。
何がいけなかった? 何を間違えた?
腹の底へ淀み、トグロを巻く……焦りや怒りや嫉妬や……行き場のないドロドロとした感情たちが、僕を揺さぶる。
――ライアンは、悪くないの。だから……
そんな言葉は聞きたくなくて。
思いっきり、彼女を引き寄せた。
顎を掴んで上向け。
愛しい唇を奪おうと、覆いかぶさった――……が。
交差した彼女の眼差しの中に束の間見えたのは、恐怖と失望。
それが、いつかの狂気の夜と同じものであることに気づいて、動きが止まった。
同じ過ちを繰り返すのかと諭す天使と、
奪ってしまえとそそのかす悪魔と、
2つの声に揺れ惑う。
その、ほんのわずかな隙だった。
緩んだ僕の腕の中から、彼女の身体はするりと、逃げ出していた。