ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
<新着メッセージはありません――……か>
携帯をデスクに放り出して、窓辺に寄った。
表通りから少し中に入っているせいだろうか。
カレントウェブが入る低層ビル、その執務スペースから望むのは、落ち着いた住宅街だ。
いつもと変わらない景色を眺め、気持ちを静めようと試みても――
玄関先、泣きそうな顔で矢倉を見上げた飛鳥。
彼に支えられ、僕の視界から消えて行った細い体……
脳裏にフラッシュバックするシーンのせいで。
今にも白いものが舞いそうな、この重苦しいグレーの雲みたいに。
感情は、乱れに乱れ、ざわつくばかりだ。
……やっぱり会社なんか来るんじゃなかった。
仕事なんて、手につくわけがない。
飛鳥は完全に、僕をシャットアウトする気らしい。
週末の間中、電話には出てくれないし、メールもラインも無視された。
本気で僕と別れて、あの男と付き合うつもりなのか?
拒み続ければ、僕が諦めるとでも思ってるんだろうか。
たまらずガラスにこぶしを押し当てた。
そこへ。
コンコン、と軽いノックの音。
「ライアン、この見積書のデザイン費用なんだけどさ、数字がおかしくな――……どうした?」
しゃべりながら入ってきた拓巳が、ギョッと目を見張って足を止めた。
そんなにひどい顔をしてるんだろうか?
「……飛鳥と別れた」
「え」