ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「なーんてな。ジョークだよ。別れるわけないだろ」
笑いながら言ったのに、彼の表情は硬いままだ。
「なんだよ、笑えよ」
「つまり、別れようって言われたんだな?」
ぐ、と言葉に詰まり……はぁっと息を吐いた。
……どうしてこいつは、いつだってこんなに察しがいいんだろう。
盗聴でもしてたんじゃないだろうな。
「僕は君が嫌いだよ、拓巳」
「好きだとか言われても困る」
「ははっ」と小さく笑い、肩をすくめて。
簡単に昨夜のことを話して聞かせた。
「心配することないさ。はいそうですかって、手放すわけないだろう?」
自分に言い聞かせるように僕が言うと。
拓巳は手にしていたプリントをデスクに置き、難しい顔で腕を組んだ。
「飛鳥さんが不安を感じてるらしいって、前に言ったよな?」
「だからそれは、指輪の――」
言葉を切った。
いや違う。指輪じゃない。
「僕の、過去の女性関係だと思う。僕は王子様みたいで、一緒にいると不安になるんだってさ。そんなこと言われても、このカオはどうしようもないのにさ」
椅子へ崩れ落ちるように座り。
腹立ちまぎれに目の前のプリントの束を取り上げて、パサッとデスクを打った。
過去はどうしたって変えられない。
未来は君だけだと誓っているのに。
一体僕に、これ以上どうしろっていうんだよ。
「それだけか?」