ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「え?」
「何か他に、あったんじゃないか? 単に女性関係だけで、彼女がそんなに悩むとは思えないんだけど。お前、他に何か、彼女に言ってないことはないのか?」
「ないよそんなこと」
笑い飛ばしてから、「あぁきっとさ」と続けた。
「気の迷いってやつだよ。元カレと再会して、昔が懐かしくなったとか」
思い出は美化されるっていうし。
「花でも買って、迎えにいくよ」
この話はここで終わり、という意味を込めて、拓巳の持ってきたプリントに目を落とした。
「あぁほんとだ、これはちょっとおかしいね。すぐに確認するよ」
拓巳が険しい顔のまま出ていくのを目の端でとらえながら、パソコンに向かってただ作業を続けた。
何かから逃げるように。
目を背けるように。
この時の僕はまだ、どこかで甘えていた。
彼女が僕から離れていくはずがないって。
あれほど愛し合っていたのだからと。
けれど彼女は、本気だった。
僕はそれをすぐ、思い知ることになる。