ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

YKDビル前の広場。
オブジェの一つにもたれて飛鳥が出てくるのを待っていると、チラチラと羽根のようなものがビルの間を舞い始めた。

寒波のニュースを思い出しつつ、黒ずんだ空を見上げた。
ついに降り始めたか。


――この寒空にそんな軽装で、よく平気よね。


信じられない、と目を丸くしていた飛鳥を思い出して、頬が緩んだ。

割と寒さには強い方だと思うけど。
飛鳥は弱すぎなんだ。
着込みすぎて、動きにくくないのかなって心配になるくらい。


――ライアンって、体温高いから大丈夫なのかな。
――体温? そうかな。
――だって寝る時ね、いつも思うの。まるで湯たん……ぽ……


語尾が不自然に消えていき、反比例するみたいに赤く染まる飛鳥の顔。

――なんで顔赤くなってるの?
――ななんでもないっ!
――何考えてるの? 湯たんぽって何? ねえねえ!


ねえ飛鳥。
あの時何を、考えてた?

ベッドで触れ合った僕を、思い出してくれたんだろ?
あんなに赤くなってたし、
君の頭の中には、裸の僕でもいたのかな。
まるで湯たんぽみたいに、あったかかった?

ごめんね、実は湯たんぽが何か、知ってたんだ。
でも真っ赤になる君が可愛くて、もっと見ていたくて。
つい揶揄っちゃったんだ。

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