ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「えぇっ!? ほんとに同じ男だったの?」
「そうなんですよっ! 間違いないです。同じ帽子かぶってたし。結構あたし好みの顔だったから、覚えてたし」
「やっだぁ、怖―い!」
言いながら、フードコーディネーターの南波さんがぶるっと身震いした。
カフェから移動して、現在地はカレントウェブの会議室。
田所さんを待ってる間も、ラムちゃんの興奮は収まらず。
南波さんが到着すると、さっそく私たちにしたのと同じ話をもう一度、語って聞かせているのだ。
「きっと、あの時ぶつかったあたしのことを、恨んでるんですよ。お目当てのモデルちゃんに会うチャンス、あたしがつぶしちゃったから! それで待ち伏せして、復讐しようとしてるんですっあの出待ち男……!!」
出待ち男……
そう。ラムちゃんは、さっきカフェの外で、その男を見かけたのだそうだ。
オオタフーズの選考会の日、外からスタジオを伺っていたという、野球帽の男を。
「彼氏いるんでしょ、ラムちゃん。しばらく送り迎え、してもらった方がよくない?」
「え? えへ、そうですよね。そうしようかなぁ。どうしよう」
「そうしなよ。連絡したら?」
「きっとすごく心配してくれるとは思うんですけどぉ」
「優しい人なんだね」
「実はぁ、南波さんも知ってる人なんですよねー」
「ええっ!? 嘘、誰誰っ!?」
「えへへぇ~」
「飛鳥?」
2人の会話を聞き流していた私を、雅樹が見つめてる。
「大丈夫か? 顔色よくないぞ?」
「え? あ、ううん。平気平気」
なんとか唇を持ち上げて、元気をアピールしてみた。
あんまり成功してないみたいだけど――