ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
野球帽の男。出待ち男。
おそらくそれは、SDのメンバーか、関係者だと思う。
ライアンを日本に縛り付けてる原因が私だって、リー総帥にもうバレてるんじゃないかな。
だから監視してた、とか。
……監視だけ、だろうか?
浮かんだ想像に、ゾッとする。
前の事件の時も、ハッキングやら尾行やら、散々された。
常識なんて通用しない。
目的のためなら手段を選ばない人たちだってことは、わかってる。
オオタフーズの仕事はもうすぐ終わるし、これ以上ライアンと関わることはないと思うけど。
念のため、彼がシンガポールに行ってしまうまで、カレントウェブの仕事は避けた方がいいかもしれない。部長にお願いして、別の人にふってもらうことにしよう。
彼には、前に進んでもらいたいから。
もう、会わない。
関わらない。
胸の内でつぶやくだけで、冷え冷えと、そこが氷室のように温度を下げていくような気がする……
弱気な自分を励ますように、テーブルの下で両手を固く、握り締めた。
ダメダメ! しっかりしないと。
そこへ。
コンコン、と軽快なノック音。
私たちは田所さんが来たのかと、一斉にドアへと顔を向けた。
「Good afternoon ladies…,and Mr.Yagura,失礼するよ」
一瞬呼吸も忘れて、私はぽかんと、口を開けた。