ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「ライアンさ――っ……ええっどうしたんですかぁ!? それっ」
ラムちゃんが椅子を蹴倒すように立ち上がって叫んだ。
それもそうだろう。
だって彼の左顎から頬にかけて、ガーゼで覆われてて。
その下にチラリと、赤黒く変色した皮膚が見えてるんだもの。
「え、え、なんなんですか、一体っ!」
私の向かい側へと優雅に腰を下ろしたライアンは、痛々しい見てくれの頬に、春風のように爽やかな笑みを刻んだ。
「あはは、ちょっと転んじゃって。大した事ないから大丈夫だよ」
転んだ? って……
大した事ないわけないじゃない。そんなひどいアザになっちゃって。
金曜の夜は、何もなかった。
週末に何かあったってことよね? 一体何が?
探るように上げた私の視線を、翡翠色の瞳が真っすぐ受け止めた。
「っ……!」
とっさに目を伏せて、違う、と心の中でつぶやいていた。
何かが、違う。
金曜日の時の彼と。
荒んだ色はどこにもなく、やけにすっきりとした顔をしてる。
元に戻った、っていう表現の方がしっくりくるかもしれない。
一体、何があったの――?