ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「全員そろってるみたいだから、始めようか」
悶々と考えてる間に、朗らかな声にさらりと言われ。
「え」と困惑した声が漏れた。
「ちょ……田所さんは?」
担当は田所さんでしょ?
そもそもここに、ライアンが座ってること自体わからないんだけど……
「別件で忙しくなってね。もうラスト1回の撮影を残すのみだし、彼にはライティングに専念してもらうことにして、あとは僕が引き継ぐことになったんだ」
「ひ、引き継ぐ?」
「この後は、僕が仕切るってことだよ。よろしく、“真杉さん”」
真白い聖者のような微笑を向けられて。
なぜかゾクリと、痺れるような衝撃が走る。
田所さんの代わりに、彼と一緒に仕事するってこと?
なんで……?
私の顔なんか、見たくないでしょ?
何を考えてるの? 彼は。
「それとも……僕が担当じゃ、ご不満かな?」
冗談めかして眉をあげる仕草には、余裕すら感じられるようだった。
「い、いえ……まさか。よろしくお願いします」
ままならない唇をなんとか動かしてそれだけ言い、こくっと唾を飲みこむ。
彼の意図がわからなくて、読めなくて。
鼓動が、加速度をつけて打ち始めていた。