ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「大げさよ。少し眩暈がしただけだしっ! 医務室なら自分で歩いて――」
「黙らないと、今ここでその口、塞ぐよ?」

「なっ……」
どうやって“塞ぐ”のか想像できてしまい、ぐ、と口を噤んだ。


大人しくなった私を抱いたまま、ライアンは確かな足取りで歩き出す。

途端。
フロア中から好奇心丸出しの視線とヒソヒソ声が集中して。
かぁあっと頬に血が上る。

三十路女子がお姫様抱っこって、恥ずかしすぎるんだってば。
しかも社内で……なんて。
あぁもうっ穴があったら入りたい。

身体をひたすら小さくする私だったけど……

「恥ずかしかったら、目を閉じてればいい」


降ってきたのは、予想外の険しい声だった。

見上げた端正なその顔に、いつもの笑みはなく。
彼が、本気で心配してくれてることが伝わってくる。


トクンッ――


高く、浮ついた音を立てる心臓。

急いで瞼を伏せて、喜んでいる自分に気づかないふりをした。

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