ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「ははっごめん、びっくりした?」
笑い声とともに、また目の前が明るくなる。

悪戯っぽくウィンクした彼は、隠し持っていたものを見せてくれた。
スポーツドリンクだ。
もしかして、わざわざそれを買いに行ってくれたの?

「ずっと持ってたらさ、手がこんな氷みたいに――ほら」

もう一度、優しく触れてくる手。
大きなそれは、私の額と両目まで簡単に覆ってしまう。

ひんやりした感触が伝わって……すごく……

「気持ちいいだろ?」
「……ん」

まるで人間冷えピタ?
普段は彼、体温高いんだけど。湯たんぽみたいに、と考えて……

あぁ、そんな会話したことあったな、って思い出した。


――なんで顔赤くなってるの?
――ななんでもないっ!
――何考えてるの? 湯たんぽって何? ねえねえ!


湯たんぽから、ベッドでの彼を想像したなんて言えなくて。
真っ赤になっちゃったっけ。

もう随分遠くなってしまった記憶に、胸の奥がキシキシと切ない音を立てる。


冷えピタなら……すぐそこ、戸棚の中にあるのに。
私はそれを、言い出せない。

彼の手が、心地良すぎて。

あぁもう、この人はどうしてこんなにも、
私の心をかき乱してくれるんだろう……

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