もうひとりの極上御曹司

「駿平先生って、成市さんによく似ているわ。家族への愛情が底なしで優しすぎるのね」

緑は呆れながらもその気持ちがわかるのか、かわいらしく肩をすくめた。

愛されている自信のせいか、五十代だとは思えない美しさに、千春は思わず見惚れた。

「駿平先生にとって、千春ちゃんはとっても大切な家族だってわかるけど。亜沙美ちゃんだって今日は駿平先生と会えるのを楽しみにしているんだもの。さ、未来の家族に会いに行くわよ」
「行くわよって言われても、まだ仕事が残っているし、それに千春とハンバーグ……」

駿平はか細い声でそう言って、後ずさる。

千春に助けを求めるような視線を向けるが、まだまだ若い千春が緑に太刀打ちできるわけもなく、力ない笑顔を浮かべた。

緑の言葉に反論できるのは夫の成市と息子ふたりだけ。

駿平や千春には無理に決まっている。

財閥系の国内最大の企業グループ総裁の妻である緑の言葉は、大抵の場合何よりも優先されるのだ。

「そうね、だったらお仕事が終わるまで奥の部屋で兄とお茶でもして待ってるわ。自家用機で千歳まで飛ぶから、多少なら時間の融通はきかせられるし。だから、さっさとお仕事を終わらせてちょうだい」

やはり今日も自家用機で食事に行くのか……。

千春は自家用機という言葉にも慣れてきたなと思った。

緑にとっては自転車で近くのコンビニに行くのと同じ感覚なのだろう。

先月は、テレビで特集されていたイタリアのスイーツをどうしても食べたいと言って自家用機を飛ばしたと聞く。

最初に聞いたときにはスケールの大きな冗談だと思ったが、駿平から「緑さんの言葉に嘘も誇張もひとつもない」と聞き、呆然とした。

八歳で緑と出会って以来、木島家との縁が続いているが、今では緑に会うのが楽しくて仕方がない。

自分とまったく関係のない世界の夢物語は、聞けば聞くほど面白い。

想像も妄想もできない別世界の華やかで現実味のない遠い話。

だからこそ、わくわくし、緑の話を楽しめるのだ。


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